「魂の医療」は「慈悲の医療」

「魂の医療」は「慈悲の医療」

これまで何度も誤嚥性肺炎で救急車で運ばれた母。

その度に医師から「ここ数日が山です」と言われて覚悟を決めてきた私。

それでもその度に不死鳥母は蘇り、再びご飯をもりもり食べるようになるのでした。

母を見ていて、食欲というのは生命力そのものであること、母は生きようとしていることを感じました。

しかし、その母がいよいよ食べられなくなりました。口から食べたいという意思表示がなくなってしまったのです。

体も痩せ細り衰弱も著しくなってきました。目もうつろで虚空を見ている感じです。

母のその姿を見ていると切なさとともにいろいろな想いがこみ上げてきます。

母はお空に還る準備をはじめているのだろうか。先に光の世界に還って行った夫(父)と息子(私の弟)がいよいよお迎えに来てるのだろうか。

でも私が話しかけると私の顔をじっと見ます。微かに反応を返してくれるのです。

聴覚は最後まで残るということを聞いていたので、母の手に触れながら耳元に話かけてみました。

言葉は返ってきませんが、母はちゃんと感じている、私の言葉を聴いていることがわかります。

 

胃瘻という延命手段もありますが

母の入居している施設と提携している病院の医師から、

「胃瘻という延命の手段がありますがどうされますか?」と聞かれました。

母の施設の近所に一人で暮らしている母の妹である叔母は、

「胃瘻でも何でもいいから一日でも長く幸っちゃん(母をそう呼びます)には生きていてほしい」と言います。

私の中には、母に一日でも長く生きてほしい気持ちと、

苦しまず痛い思いをせず穏やかな自然死を見守りたい私がいます。

後者の私はそれゆえ延命治療は望まないという選択をしたいのですが、

前者の気持ちと叔母の気持ちを考えるとやはり心は揺れるのでした。

母が入院している病院の医師ではなく、

10年来親しくさせていただいている長堀優先生(育生会横浜病院院長)にメールで相談してみました。

私は日頃から長ちゃんと呼ばせていただいているので以降、長ちゃんと書かせていただきます。

私の相談に対して、長ちゃんはすぐに心のこもった返信をくださいました。

そのメールを見て私は目頭が熱くなりました

 

長ちゃんからのメッセージ

明美ちゃん、おはようございます。メッセージ拝読させていただきました。

一番大切なのはお母様の意思です。もともとどうお考えか、今どうお考えか、です。

認知があリ判断できないのであれば、私は胃瘻をお勧めはしません。

私は、父、義理の父母、三人ともに最低限の手の点滴だけで看取りました。

意思の疎通ができるなら、そして、何より明美ちゃんが、どんな状態でも生きていてほしいと願うなら、行うべきです。

でも迷ってるということは、そうではないとお見受けします。

胃瘻は、やはり非人間的です。時折逆流して肺に流れ込み痰を増やし、辛い吸痰処置を受ける回数が増えることもあります。

実母が今健在ですが、私は口から入らなくなったら、私たちは胃瘻は望みません。

感謝してねぎらい、見送ろうと思ってます。

私は、患者さんのご家族が迷ったら、「私は親にはしませんでした」と伝えます。

でも決めるのはもちろん患者さんのご家族です。

私自身も、自分で食べられなくなり寝たきりになったら、不自由な身体から抜けだして自由になって天に帰り、次に備えることを望みます。

 

「新しい医療の在り方」を求めている人たち

長ちゃんとは2009年に「心を見つめ、いのちを見守る愛ある医療を考える」のシンポジウムを一緒にやりました。

当日は雨の降る中、世田谷区民センターになんと1000人もの人が全国から集まりました。

中には、海外からいらした方も数名いてスタッフは皆驚きました。

新しい医療の在り方を求めている人たちがこんなにいらっしゃることを肌で感じ心が震えました。

医学は科学です。でも、医療にはは、科学だけでは割り切れないものがいっぱいあります。

患者や家族のそれぞれの気持ちや想い、クォリティ・オブ・ライフ、人としての尊厳、人と人との繋がりや思いやり、安心感、旅立つ人と見送る人の最後の命の営みの物語があります。

何より科学は、「いのちとは何か?」「人はなぜ生まれ、死んでいくのか」

そもそも「死とは何か」「愛とは何か」「生きる意味とは何か」

について科学は明確な答えを持っていません。それは科学の分野を超えた形而上学的なテーマだからです。

宇宙、生命、存在の計り知れない奥深さと神秘に対して科学が証明できることはわずかしかありません。

 

時代の要請を受けて

『科学者はなぜ神を信じるのか』
(三田一郎著/ブルーバックス)

という本があります。名古屋大学名誉教授であり、

理論物理学者として素粒子論の研究に人生の大半を捧げてきた三田一郎先生のご著書です。

この本の中では、アインシュタインやニュートン、ボーア、ハイゼンベルクなど、

宇宙論、素粒子論を扱う理論物理学者が、

これまで万物の創造主と考えられてきた神について想いを馳せざるを得なくなっていく研究過程が書かれていて大変興味深いです。

ノーベル物理学賞を受賞された日本人学者の先生方は、いずれも素粒子論、量子物理学を専門にされています。

お釈迦様が2500年前に悟られた

「色即是空」
「空即是色」

を現代物理学の最先端の研究である量子物理学が証明し始めています。

21世紀は、物質文明から精神文明の黎明期になることを伝えている人は今とても増えています。

精神文明という、目には見えない世界、真の意味でのスピリチュアリティ(人間の本質である霊性の目覚め)

に対して科学者が語り出していることがまさに新しい時代の夜明けを感じさせます。

長ちゃんの著作もまたその大いなる流れの中で時代の要請を受け次々に誕生したのです。

 

『見えない世界の科学が医療を変える』『いざ、霊性の時代へ』

あのシンポジウムを開催してから11年経ちます。その間に長ちゃんも私もそれぞれ新しい本を2冊出版しました。

前述したテーマに対して私は、生死を彷徨う病気を体験した元患者の立場から、

長ちゃんは日々、人の生死に関わる現場の外科医の立場から書いています。

長ちゃんは、『見えない世界の科学が医療を変える』

『日本の目覚めは世界の夜明け〜今蘇る縄文の心〜』

を出版されたあと、満を侍して今年8月、長ちゃんの誕生日に新刊が刊行されます。

新刊は、『いざ、霊性の時代へ〜日本が導くアセンションへの道〜』です。

長ちゃんから直筆のサイン入りで新刊をご献本いただきました。

長ちゃんが新刊で「霊性」「アセンション」という言葉をタイトルにしていることは

量子論よって目に見えない世界の方が本質であることが証明されはじめている時代背景を考えると至極自然な流れのように思います。

長ちゃんの新刊を読み、改めて長ちゃんの死生観、生命観、現代医療への新たなる提言、

量子論から見た人間の本質、この世の森羅万象を創造している源の意識、

新型コロナが意味する、この閉塞した世界のパラダイム・シフトへの力強くも愛に溢れた提言を夢中になって読み始めました。

長ちゃんは、医療に関しては「魂の医療」「慈悲の医療」を目指され、実践されている医師であると共に

世直しを本気でやろうとしている文明のドクターであることがこれまでの本と新刊を通して感じます。

長ちゃんの新刊を読んでいる最中に母の終末期医療の選択の問題が起きてきたことは偶然とは思えませんでした。

私は無理を承知で、長ちゃんに母の最後を見守っていただきたい旨をお伝えしました。

「死は敗北ではない」「死は、今世の人生の成就、完成であり、新しい生への旅立ちです」

と言う長ちゃんのような死生観と慈悲心に溢れた医師に母の最後を見守って欲しかったのです。

そうしたところ、なんと急な転院希望を長ちゃんは快く引き受けてくださったのです。

 

子どもの頃に母親を亡くすということ

長ちゃんの病院に母が転院できたその日、叔母と食事に行きました。

母は小学校3年生の時に実母を亡くしています。末の妹である叔母が生まれてすぐだったそうです。

なので叔母にとってうちの母は、母親代わりなのです。

自分もまだ小学生であるにもかかわらず、妹をおぶって家事をしていたと母から聞いたことがあります。

叔母は一度結婚して二人の子どもを授かっていますが、夫とそりが合わず、生理的に受け入れられなくなり、一緒に暮らしていくことに苦痛を覚えて離婚を申し出ました。

夫から「離婚してもいいけど子どもは絶対に渡さない」と言われました。

叔母は二人の子どもを連れて夜逃げしましたが、1ケ月後に夫が居場所を突き止め二人の子どもを連れ去りました。

それ以来叔母は子ども達に会えていません。

長女が高校生になった頃一度電話をしたところ、

「お父さんが一生懸命育ててくれて感謝している。お母さんは私達を捨てて出て行った人です。私は会いたいと思わないので二度と電話しないでください」と言われたのです。

 

私は天涯孤独になってしまう

叔母は人生を後悔していました。

それに加えて、老後の蓄えも少なく経済的不安も抱えていました。

兄姉も全員亡くなっています。

「さっちゃんが死んだら私は天涯孤独になってしまう」と叔母は泣きます。

私は叔母に言いました。

「おばちゃんが2人の子どもをどれほど愛し、片時も忘れたことがないこと私は知ってるよ」

「おばちゃん、お母さんがもしいなくなっても私は今まで通り、毎月行くよ。一緒に美味しいもん食べに行こうよ、今までお母さんとおばちゃんといつもしていたように」

「おばちゃんはうちのお母さんの介護をたくさんしてくれて私は心から感謝しています。だからこれからも仕送りはずっとするから生活のことは心配しなくていいからね。おばちゃんは一人じゃないよ」

と言ったら叔母は堰を切ったように泣き出しました。

しばらくすると叔母は穏やかな顔になりこう言いました。

「長堀先生のような優しいお医者さまの病院に転院できて本当に良かった。長堀先生はいくつかの選択肢を言ってくれたけど、さっちゃんが安らかに逝けるように支えてもらえればいいよね」

「もちろんさっちゃんには一日でも長く生きてほしい気持ちはあるけれど、さっちゃんが痛い、苦しいっていう治療はやっぱりかわいいそうだものね」

 

看取りの形は医療者が決めることではない

その夜、長ちゃんにメールでお礼と私と叔母の選択を伝えたところ、長ちゃんはすぐに返信をくださいました。

明美ちゃん、ご連絡ありがとうございます。

お気持ちよく分かりました。でもまだ今決めることではありません。

これからお気持ちが揺れることもあるでしょう。

大切なことは絶対に後悔しないことです。

迷ったら、私はいつも延命をお勧めしてます。

叔母様のお気持ちもよくわかります。そのお気持ちに沿うのが私たちの務めです。

ですから今すぐに点滴の内容を変えることはしません。

ご家族それぞれの事情があります。

看取りの形は、医療者が決めることではありません。

こちらはただいろいろな選択肢を提供するだけです。

実際に、お元気になる方もいるので、もう少し様子を見てから決めることにしましょう。

納得の上でお見送りしていただきたいというのが我々の気持ちです。

それには時間もかかりますから急ぐことはありません。

明美ちゃんが、11月18日のお母さんの誕生日を祝いたい気持ちがあるというのであれば、

11月まではお支えするように頑張ります。

じつは、病院経営の観点から言えば、延命を支え、長く入院していただくに越したことはありません。

僕みたいには馬鹿正直なのは経営者として失格ですが、病院経営が厳しい中、

なんとか頑張れてるのは、やってることが天の道から外れていないからじゃないかなと思ってます。

ともかく、叔母様には後悔を残していただきたくはありません。

もう少しお時間をかけましょう。

お気持ちが変わったり、ご希望があればなんでも遠慮せずにおっしゃってくださいね。よろしくお願いします。

 

モノレールがある病院!

長ちゃんが院長を務める「育生会横浜病院」は、緑に囲まれた高台にあるのですが、なんと病院独自のモノレールがあるのです。

大通りから病院に続く坂道を体力が弱っている方やお年寄りの方が困らないようにと作られたものだそうです。

長ちゃんは地域に根差された、人に優しい医療をされています。

「超高齢社会では医療も変わっていかなければいけないのです」

「人間は結局、最終的には誰もが亡くなります。だからこそ一瞬一瞬を大事に悔いのない人生を生きて、最期の旅立ちを良き時間として過ごしていただけるように医療者は精一杯支えさせていただくのです」

「治す医療だけが医療ではない。健康的な死というものがあると私は思っています。患者さまの新たな旅立ちを見送る医療、愛と慈悲の医療を私の生ある限りやっていきたい」

「そして、新刊に書いたように、このコロナ騒動が起きていることの真の意味、社会構造の歪み、人類の価値観の歪みの事実を知ってもらいたいと思ったのです」

「コロナに関してマスメディアが決して流さない事実を伝えました。目に見えるものだけを信じる唯物主義、金権主義、支配と隷属の社会構造がこれからどんどん音を立てて崩れゆきます」

「そして人間が自己の本質である愛に目覚め、助け合って、支え合って生きていく大調和のミロクの世を創っていく使命を日本人が担っていることを伝え続けていきます」

このような想いで医療と世直しをされている長ちゃんの病院に母を預けることができて本当に嬉しい。

母もきっと喜んでくれているように思う。

本当は母をもう一度だけ好きな箱根の温泉に連れて行きたかった。

母を連れていくことは叶わなくなったので先日一人で、箱根神社と九頭龍神社にお詣りをしてきた。

幼少期から今日までの母とのいろんな思い出が蘇り、手を合わせながら涙がとまらなくなった。

そして、今日、8月2日は、私の誕生日。

お母さんが人生で初めてお母さんになった日。

私がこの世にデビューした日。

「お母さん、私を産んでくれてありがとう」

お母さんがあちらの世界にデビューする日がいつなのかはわからないけれど、

コロナ騒動が終息してお見舞いに行けるようになることを願っています。

【関連ブログ】

・魂を語ることを恐るるなかれ

・永遠の旅の途上

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