人の心の氷河期・無声慟哭

人の心の氷河期・無声慟哭

自分は人と違う

童話というのは子どもが読む本、と思っている人が多いのはないでしょうか?

でも実は大人になってから読むとその深淵なテーマの深さに驚くことがあります。

もし子どもの頃から生きづらさを感じていたり、周囲に馴染めなかったり、

自分は人と違う、自分は何か変なのだろうかと思って生きてきた人や、

この世界に違和感を覚えながら生きてきた人、まことの幸せってなんだろうとずっと探してきた人は岩手が生んだ天才、宮沢賢治の童話をぜひ読んでみてください。

 

人の心の氷河期

『銀河鉄道の夜』『よだかの星』『風の又三郎』『オツベルと象』などがおすすめです。

読書が苦手な人はアニメ『銀河鉄道の夜』も猫のキャラクターが可愛いのでとっつきやすいと思います。

賢治は詩人でもあるのですが、私は『春と修羅』という詩集の中にある、

「無声慟哭」「永訣の朝」を高校時代に読み、生きる中で愛する人を突然亡くすという体験をした人の心の氷河というものを感じ入り、涙しました。

賢治の最大の理解者だった妹トシを亡くした賢治の悲しみが文章から切々と伝わってくるのです。

 

無声慟哭・永訣の朝

永訣の朝

けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ

みぞれがふつて

おもてはへんにあかるいのだ

(*あめゆじゆとてちてけんじや)

うすあかくいつそう陰惨雲から

みぞれはびちよびちよふつてくる

(あめゆじゆとてちてけんじや)

青い蓴菜(じゆんさい)のもやうのついた

これらふたつのかけた陶椀に

おまへがたべるあめゆきをとらうとして

わたくしはまがつたてつぱうだまのやうに

このくらいみぞれのなかに飛びだした

(あめゆじゆとてちてけんじや)

蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる

ああとし子

死ぬといふいまごろになつて

わたくしをいつしやうあかるくするために

こんなさつぱりした雪のひとわんを

おまへはわたくしにたのんだのだ

ありがたう
わたくしのけなげないもうとよ

わたくしもまつすぐにすすんでいくから

(あめゆじゆとてちてけんじや)

はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから

おまへはわたくしにたのんだのだ

銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの

そらからおちた雪のさいごのひとわんを

ふたきれのみかげせきざいに

みぞれはさびしくたまつてゐる

わたくしはそのうへにあぶなくたち

雪と水とのまつしろな二相系をたもち

すきとほるつめたい雫にみちた

このつややかな松のえだから

わたくしのやさしいいもうとの

さいごのたべものをもらつていかう

わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ

みなれたちやわんのこの藍のもやうにも

もうけふおまへはわかれてしまふ
(*Ora Orade Shitori egumo)

ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ

あああのとざされた病室の

くらいびやうぶやかやのなかに

やさしくあをじろく燃えてゐる

わたくしのけなげないもうとよ

この雪はどこをえらばうにも

あんまりどこもまつしろなのだ

あんなおそろしいみだれたそらから

このうつくしい雪がきたのだ

(*うまれでくるたて
こんどはこたにわりやのごとばかりで
くるしまなあよにうまれてくる)

おまへがたべるこのふたわんのゆきに

わたくしはいまこころからいのる

どうかこれが天上のアイスクリームになつて

おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに

わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

 

 

無声慟哭(むせいどうこく)

こんなにみんなにみまもられながら

おまへはまだここでくるしまなければならないか

ああ巨きな信のちからからことさらにはなれ

また純粋やちひさな徳性のかずをうしなひ

わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき

おまへはじぶんにさだめられたみちを

ひとりさびしく往かうとするか

信仰を一つにするたつたひとりのみちづれのわたくしが

あかるくつめたい精進のみちからかなしくつかれてゐて

毒草や蛍光菌のくらい野原をただよふとき

おまへはひとりどこへ行かうとするのだ
(*おら おかないふうしてらべ)

何といふあきらめたやうな悲痛なわらひやうをしながら

またわたくしのどんなちひさな表情も

けつして見遁さないやうにしながら

おまへはけなげに母に訊きくのだ

(うんにや ずゐぶん立派だぢやい
けふはほんとに立派だぢやい)

ほんたうにさうだ

髪だつていつそうくろいし

まるでこどもの苹果の頬だ

どうかきれいな頬をして

あたらしく天にうまれてくれ

ほんたうにそんなことはない

かへつてここはなつののはらの

ちひさな白い花の匂でいつぱいだから

ただわたくしはそれをいま言へないのだ

(わたくしは修羅をあるいてゐるのだから)

わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは

わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ

ああそんなに
かなしく眼をそらしてはいけない


*あめゆきとつてきてください

*あたしはあたしでひとりいきます

*またひとにうまれてくるときは

こんなにじぶんのことばかりで

くるしまないやうにうまれてきます

*ああいい さつぱりした

まるではやしのなかにきたやうだ

*あたしこはいふうをしてるでせう

*それでもわるいにほひでせう

 

みんな時間のないころの夢を見ているのだ

「感ぜられない方向を感じようとする時ときは、誰だってみんなぐるぐるする」

「みんな時間のないころのゆめを見ているのだ」

「ただそこから、風や草穂のいい性質が、あなたがたのこころにうつって見えるなら、どんなにうれしいかしれません」

「やさしい光の波が、一生けんめい、一生けんめいふるえているのに、いったいどんなものがきたなくて、どんなものがわるいのでしょうか?」

「すべてが、わたくしの中の、みんなであるように、みんな、おのおのの中の、すべてですから」

 

 

心の宇宙は至福に満ちていた

詩人であり、童話作家であり、花巻農学校の優れた教師でもあった宮沢賢治。

天文学、地質学、鉱物や植物を愛した賢治でしたが、その人生は挫折の人生でした。

賢治が生きている間には、そのいのちの仕事は全く評価されず、作品も全然売れなかったのです。

作品が評価され多くの読者の心を揺さぶるようになったのは、彼が亡くなった後でした。

宮沢賢治は3次元の世界では、挫折と葛藤と失意にまみれることの多かった人生だったのですが、彼の心の宇宙はいつも至福に満ちていたのです。

 

 

【YouTubeあけみちゃんねる】のライブトークのゲストである清水友邦さん(イーハトーブ心身統合研究所所長)とは宮沢賢治の世界観をベースに語りあっています。

 


 

今年のワークショップの主催者と開催場所

これから開催の岡部明美WSの情報については以下をご覧ください。

詳細ページはこちら

 


岡部明美《個人セッション・ワークショップ・LPL養成講座情報》

【今後の予定】

●ワークショップ・LPL養成講座

http://www.okabeakemi.com

岡部明美LP L養成講座の認定セラピストがオンラインで個人セッションをしています。

オンラインセッションが可能なLPL認定セラピストはこちら

 


書籍&CDのお知らせ

 

●拙著2冊以上をご希望される方は、定価の2割引き、郵送費当方負担でお送りいたします。

●お申込み(お名前・ご住所・電話・メルアド・本のタイトル・冊数を書いて下記にお送りください)

3daysbook@okabeakemi.com

 

『私に帰る旅』
(学芸みらい社)


角川学芸出版から刊行された本書が、
装幀も新たに学芸みらい社から刊行されました。
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『約束された道』
(学芸みらい社)


2017年6月刊行と同時に増刷。
2018年4月第3刷決定。
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『もどっておいで私の元気!』
( 善文社)


1996年5月刊行から24年間のロングセラー。第12刷。
Amazonで購入できます
全国の書店でもご注文できます

 

『いのちの花』
(CD)


¥2,000
CDは講演会、ワークショップ等で販売しています。必要な方は、Facebookのメッセンジャーにご連絡下さい。

 

投稿者プロフィール

岡部明美
岡部明美
心理カウンセラー、セラピスト、研修講師、作家、東海ホリスティック医学振興会顧問
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