目次
自分の感情はいつも置き去り
私の父は、お酒を呑んでいない時はまるで仏さんのような人でしたが、お酒を呑みむと人が変わったように荒れ狂う人でした。
妻や子どもたちに手をあげるようなことはありませんでしたが、大声を出す、怒りだす、ものを壊す、家を壊すという、とても暴力的な人になりました。
その父の有り様のギャップに子どもだった私は混乱し、悩み、怯えていました。
父が酒乱になると母はヒステリックになります。
突然、怒って大声を出す男の人と、自分の感情をコントロールできずヒステリックになる女の人が嫌いだったのは、そのような私の家族の修羅の背景がありました。
何十回と繰り返される離婚騒動の調停役はお手の物と言えるほどの腕前になりましたが、
その時に起きていた自分の感情はいつも置き去りにされ、抑圧されていました。
写真
人が自分のアルバムに貼ってきた写真は、ほとんどが自分の人生の「ポジフィルム」。
「ネガフィルム」は心の中にしまいこまれたまま、思い出すことさえ自分自身に禁じられた。
自分以外の誰もみたことがない悲しみの写真の何枚か。
アルバムに貼られた写真はいつかセピアカラーになってゆくのに、心の奥深い所にしまわれた写真たちは、しまいこんだ時の色のまま、傷ついた心のまま、ひっそりと生き続ける。
その何枚かのネガフィルムがあるために、過去を振り返ることには心の痛みがともなう。
キラキラと輝いていた日々、無邪気に笑っていた日々もたくさんあったはずなのに、
思い出すことが苦しみにつながるそれらの写真が過去を曇らせ、光に溢れていた日々さえも遠くに追いやっていた。
人は誰も、心の深い部分に子供時代の傷をもっている。
記憶の彼方に追いやったはずの心の痛みが、自分の生き方に想像以上に影響を与えていることを知ったとき、震えていた。
「小さな小さな存在」だった自分を癒したいと思った。
自分を取り戻すために、もう一度自分を生きるために。
『もどっておいで私の元気!』
岡部明美著/善文社
自己犠牲しながら自分の居場所を作っていた
長じて社会人になり、会社勤めをするようになると、会社のトップ2人の対立、罵り合いの調停役をやることになります。
子ども時代に家族の中でやっていたことと全く同じことをしていたことに、
15年ほど前のあるワークショップで気づいて、愕然としたことを昨日のことのように覚えています。
会社員時代、この調停役というパターンをやり、トップの期待に答える為に死ぬほど仕事をしました。
この時もまた自分自身の心が苦しんでいるということを置き去りにして、無意識の役割行動をしていたのです。
私は機能不全家族の中で、子ども時代にちゃんと子どもをやってこなかった人間です。
子どもなのに親の面倒や世話や愚痴の聞き役をやってきました。
父からも母からも、私がいなかったら確実に離婚していたと何度も言われました。
私は自己犠牲しながら、親の愛をもらい、自分の居場所を作ってきたのです。
このパターンを手放すことが最大の私の成長のテーマでした。
他人軸から、自分軸になり、自分の感情的反応を相手のせい、人のせいにしなくなるためには、
たくさんのレッスンが次から次にやってきました。
犠牲
自己犠牲的な生き方は、一見、甲斐甲斐しく、一生懸命で、やさしさと愛情に溢れた行為のように見える。
でも、本当は、相手や周囲の人たちに「感謝することを求める気持ち」「自分を評価してほしい気持ち」「依存したい気持ち」が心の奥に潜んでいる。
自分を犠牲にして「相手のために」「子供のために」「家族のために」「社会のために」生きていると、自分が期待するような認められかたをしないときに、不平不満がつのっていく。
見返りや評価を求める自己犠牲には、心の満足感や、やすらぎはやってこない。
そして、相手への依存度が高くなればなるほど、その対象を失う恐れが自分を縛り、心の柔軟性が失われていく。
自分がしたいからやっている、自分が好きだからやっている、自分のためにやっている。
それが、結果的に誰かの役に立ち、社会の役に立っていることに気づいたとき、本当の心の満足とやすらぎがやってくる。
『もどっておいで私の元気!』より
与えるふりをして、もらおうとする
全てを親に依存しなければ生きていけない子どもにとって、親は権威です。
親との関係で得られなかったことは他者へのニーズとなり、
傷ついたことは、もう二度傷つかないための防衛パターンを作り出します。
親との関係できてしまった自分や人や世界への思い込みと態度と役割行動は、自動反応となり、
大人になって自分が属する組織の権威ー社長・上司・先生・講師・リーダー・セラピスト・コーチなどの、
立場が上の人や援助職の人に投影されます。
正確には、ポジティブ転移・ネガティブ転移と言います。
「家族という場」「会社という場」は、その構成メンバーが毎日顔を合わせるので、「ストレスの館」と化すことが珍しくありません。
その時に多くの人がやるのは、被害者や犠牲者の立場に身を置き、
反応合戦、防衛合戦、頂戴合戦をします。
または、「与えるふりをしてもらおう」
という取引、駆け引きのコントロールドラマをしたり、
相手を変えようと無意識の操作をするコントローラになったりします。
しかし、これは功を奏しません。
自分自身の古傷から繰り返される自動反応のカラクリを知ることが先決です。
そして幼かった自分がその時にはその方法でしか自分を守れなかった自己防衛策や、
親(人)からの愛と承認を得るための生き残り対策が、
大人になった自分にはもう必要がないことを悟り、
新しい、意識的な選択をできる自分として生きていっていいことを自分に許可することが、
自分の人生を始める第1歩となります。
古傷を癒し、傷を恵みに変えることが自己成長の課題であり、人生からのギフトなのです。
そうなることで自分が今まで、人を変え、場を変えて繰り返してきたコントロールドラマを終わらせ、自由自在に生きられる自分になっていきます。
自立
自立した生き方を目指して生きてきたら、いつのまにか人に弱さを見せられないようになり、人とつながれない自分になっていた。
自立の意味を、今の私なら、もっとやさしくとらえられる。
自立とは、自分の意思で選択し、行動し、その結果を自分で引き受けるという生き方ができること。
同時に、自分をゆだねたり、甘えたり、頼ったり、相手のそういう部分も受け入れられる関係性の柔軟さを楽しめること。
自立とは、お互いの世界を大切にしながら、共に成長しあう関係性を創りつづけてゆくこと。
愛と信頼を深めながら、重くならず軽くたっていられる関係性を築いていくこと。
自立とは、ひとりでも生きてゆく力を身につけながら、
人はひとりでは生きていけないことを心とからだの芯から感じとること。
「自由と孤独」「愛と憎しみ」が背中合わせにあることを知り、臆病になってしまったとしても、
なおもう一度、真から人と一緒に生きていこうという気持ちが湧き上がるのを静かに待てる自分になること。
『もどっておいで私の元気!』より
家族という場・会社という場
家族の中でやっていた役割行動が、会社という組織の中でやっていた役割行動と酷似していたことに驚いたのは、
15年ほど前に体験し、学んでいたファミリーコンステレーションでした。
父が酒乱で母にすごく苦労させていたのに、私はなぜか父の味方でした。
父の苦しみや悲しみをわかってあげない母に怒りを感じることさえありました。
精一杯家族のために馬車馬のようにして働いている父に感謝の気持ちが足りない母を責める気持ちもありました。
この私の心理がどのようなところから生まれたのかがわかったのがファミリーコンステレーションでした。
初めて自分の家族のコンステレーションをやってもらって思ったのです。
誰も悪い人なんかいなかったんだ、、、
それぞれが、あの頃、あの時、いっぱいいっぱいがんばっていて、
ただ生きるのに必死だったんだ。
父や母にも、また自分の親がいて、
その親との関係で苦しんできたことやたくさんの悲しみがあったことを初めて実感を伴って感じられた。
戦争や疎開や貧しさや、嫁姑問題や、その時代の影響や家族の事情に、
誰もが影響を受け、ただ健全でいられなかっただけだったのだ。
そして小さな私も本当に健気にあの家族の中で、家族を守ろうとしていた。
自分の居場所が壊れることに怯えていただけじゃない。
親の期待に応えて褒めてほしかっただけじゃない。
むちゃくちゃな家族だったけど、私はこの家族をただ愛していたのだ。
父も母も弟たちも本当は大好きだった。
自分の中の本当のこと、本当の気持ちに触れるとわけもなく涙が溢れてくる。
今は私自身がいくつもの対人援助の手法を使って人をサポートする立場にあるが、
前回のブログで産業医であり、アドラー心理学講師の上谷実礼さん(ミレイちゃん)からは、
LPLで多様な心理療法を学んだけれど、今回のコラボワークショップでは、
「コンステレーション」をやってほしいと言われたのでやらせていただいた。
ミレイちゃん自身が自分の家族のコンステレーションを私に受けたことがあるので、その体験からのリクエストでした。
自分の人生を「見える化」「外在化」して見る
コンステレーションとは、「星座」を意味する単語です。
ユング心理学では「配置、布置」と訳し、
家族や会社、組織の構成要素を星 座のように見立てて配置することを「コンステレーション」と呼びます。
広い宇宙に別々に存在している星が、ある人にはそれらが白鳥や竪琴の形に見え、
大事な意味 を持っているように、個人を取り巻く事象の巡り合わせも、大きな意味を持つことがありま す。
「コンステレーション」として布置してみることで、
自分の人生を「見える化」「外在化」 し、広く、大きな視点から、自分と人生を見ることができます。
関係性の歪みやもつれを紐解き
自分ではない誰か(主には、親・兄弟・祖母、祖父)の「感情」や「役割」を「肩代わり」していたことへの気づきと手放しが起こることで、家族連鎖を止めることができます。
生きづらさを抱えて生きてきた人が、自分の癒しに取り組み、解放が起きると、
家族、家族の体系の中でもつれていた糸がほぐれて、
本来の自分らしさと自分のお役目を思い出していきます。
私が今やっているコンステレーションワークには、
ハコミセラピーやプロセスワークやバイロン・ケイティワーク、未来ペーシングを入れていくこともあります。
それによって、心の傷が恵みとなり、その人の魂の目的に向かって歩み出すエネルギーの源泉になっていくのです。
自分の人生のタペストリーを編んでいく
こうしたメンタルなフィールドにおける関係は、
盲目的な愛の働きにより、自分自身ではない 誰かの身代わりを演じることによってもつれ、混線し、さまざまな物語にはまり込んでゆきま す。
ファシリテーターはそれぞれの構成メンバーが他者の人生を生きるのではなく、
自分自身の 本来の立ち位置に戻り、物語から離れ、
自分自身の人生を生き始めることができるよう、注意 深く座の動きを見守り、寄り添ってゆきます。
家族の座は、家族の立ち位置や距離、角度などを代役を使って外在化させることで、
私たちが 家族の関係性のなかでどのように構成メンバーの役割を肩代わりしているのか、
その結果とし てどのような困難を感じているのかを理解し、感じながら、
その内側に隠されているエネルギ ーに光を当てます。それはヒーリングのプロセスの始まりとなります。
それにしても、「家族という物語」がどれほど今の自分の人生に影響を与えていることでしょう。
家族のもつれた糸をときほぐし、
かけがえのない「自分の人生のタペストリーを編んでいくこと」が、
生きるということなのだと最近つくづく思うのです。
つむぐ
いのちの、人生のあらゆる場面を、深く深く味わい尽くしてあなたは生きてきた。
味わいたくなんかなかった人生の苦しみ、生きていることの哀しみ、からだと心の痛みを全部引き受けて。
「こんな人生」と思って生きてきたあなたが、その人生を歩いてきてくれなかったら、私はあなたに出会えなかった。
今、自分自身を抱くあなたを見て、私の心は癒されていく。
まるで、私は鏡を見るように、あなたの人生を見つめている。
悲しみがひとつ癒されるたびに、古い衣装をひとつ、またひとつ脱ぎ捨てていくあなた。
人と人とが一緒につむぎあう人生、織りなすいのちをあたためあえる関係。
あなたが求めてやまなかったものが、今、目の前にあることに戸惑いながら、受け取ることを選んだあなたが私を見て静かに微笑む。
『もどっておいで私の元気!』より
2019年4月〜6月の活動予定
4月16日(火)〜18日(木)
◆秩父3Daysワークショップ
テーマは、「一人の変化を、世界の変化へ」〜人は皆、この世界に贈り物を持って生まれてくる〜
自分の本当の望みを知り、本来の自分の才能と強みと魅力を生かして、周囲に、社会に貢献する仕事や生き方をしたいという方、イキイキと自分らしい人生を生きたいと思う方のためのワークショップです。
◆お問い合わせ、お申し込み
5月31日(金)〜6月2日(日)
◆湘南3Daysワークショップ
テーマは「感性の扉を開き、人生のステージを上げる」
海が一望できる最高のロケーションで、感性の扉を開き、人生のステージを上げるワークショップです。
◆お問い合わせ、お申し込み
6月24日(月)〜6月26日(水)
◆安曇野3Daysワークショップ
『男と女のパートナーシップ』〜自分を愛することからはじまる、活かしあうパートナーシップの創造〜
私たちの悩み、苦しみの殆どは人間関係によるものですが、
中でも最も難しいのが男女の関係ではないでしょうか。
逆に言えば、恋人との関係や夫婦関係が良好である時の幸福感は何ものにも変えられません。
愛ゆえの依存や執着やコントロールで私たちは苦しみますが、全ては愛を学ぶレッスンです。
自分を愛することから始まる真のパートナーシップの探求を始めてみませんか。
◆お問い合わせ、お申し込み
岡部明美公式サイト
「ワークショップ」「個人セッション」「LPL養成講座」の情報はこちらをご覧ください。
書籍&CDのお知らせ
『私に帰る旅』
(学芸みらい社)
角川学芸出版から刊行された本書が、
装幀も新たに学芸みらい社から刊行されました。
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『約束された道』
(学芸みらい社)
2017年6月刊行と同時に増刷。
2018年4月第3刷決定。
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『もどっておいで私の元気!』
( 善文社)
1996年5月刊行から22年間のロングセラー。第12刷。
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『いのちの花』
(CD)
¥2,000
CDは講演会、ワークショップ等で販売しています。必要な方は、Facebookのメッセンジャーにご連絡下さい。
投稿者プロフィール
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心理カウンセラー、セラピスト、研修講師、作家、東海ホリスティック医学振興会顧問
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